天の神様にも内緒の 笹の葉陰で


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暑いおりにはどうしても、
あっさりとした めん類がメニューに増える。
焼きそばや担々麺もいいけれど、
やっぱり冷たいめん類が ダントツに人気も増すようで。
特に食欲が落ちる訳でもなくたって、
あの喉ごしや、つゆの味わいと薬味の風味の絶妙さが、
暑いときには何とも堪らないってもんでしてvv
こちらのお宅でも、
薄日が差して来たせいか、ちょっぴり蒸すようだからと、
お昼ごはんにと 卓袱台に出された大きめのガラス鉢には、
氷を浮かべた水の中、白い麺が涼しげに泳いでいて。

 「そうめんには
  色がついてるのが何本か、
  こんなして ちろんって混ざってるのがまた、可愛いよね。」

 「これは冷や麦だよ?」

薬味の用意で遅ればせながらと席についたブッダから、
そうと指摘された神の和子様、
ありゃりゃと小さく微笑って肩をすくめたけれど。
大丈夫ですよ、イエス様、
日本人だって間違える人いっぱいいますから。(笑)
あと、混ざってるってカッコじゃないですが、
淡い緑や黄色やの 色つきそうめんもありますしね。

 「これって、何束ゆでたか判るようにだって聞いたけど。」
 「そうなの?
  わたしはてっきり白い中に映えて涼しげだからかと。」

そんなイエスの見解へ、
そうだね、第一 こうなってしまうと数えにくいものねと、
ふわり微笑って あっさり自分のお説を引っ込めてしまうところは、
大人の優しさなのかなぁと。
小ぶりの取り鉢につゆを入れたの渡されつつ、
優しくて鷹揚なブッダなのへ感嘆しきり。

 “そもそも、そうめんとかって
  支度する側は ちいとも涼しくないのにねぇ。”

茹でたとうきびも そらまめも、枝豆だってそう。
それは暑い暑い想いして、たっぷりのお湯で湯がかにゃならぬ。
冷やし中華の場合なぞ、添える具だって作るから、
錦糸たまごに茹でたモヤシに千切りキュウリに。
ハムか焼き豚の千切りは…
こちらのお宅では イエスのお任せになるけれど。
そういったのまで作る手間を思えば、
全くの全然“簡単に済まそうメニュー”じゃあないのだ、
お母さんに感謝だぞ、皆の衆。

 「はい、ブッダには緑。」
 「ありがと。あ、イエスこっちに赤いのあったよ。」

こちらのお二人の場合は、
その色つき麺を、
緑はブッダ、赤はイエスが担当して食べるようにしているようで。

 「いつからだっけね。」
 「さあ。///////」

訊かれたイエスがちょっぴり含羞み、

 「早く食べようよ、伸びちゃうよ?」

いやラーメンじゃあるまいしなことを言い出すのへ、
ふふふと くすぐったそうに笑うのがブッダだということは、
やはり それなりの切っ掛けがあるらしく、
しかも…実は覚えておいでだったりし。

 『何か特別な味がするのかと思ってた。』

初めて家で湯がいてみたそれへ、
興味津々なお顔になって、それから、
何か特別なもののよに、
白い麺に紛れて色つきのが数本あるのに気づいたイエス。
さりげない振りをしつつもそればかりを追ったものの、
箸使いでブッダに敵うはずがなく、

 『これ?』

色つきのを全部、
すいすいと掬い上げての全部よそってもらったのが、
今でもちょっぴり恥ずかしいイエス様なようで。

 “私は もうすっかり忘れちゃったってことにしておかないとね。”

可愛い思い出に過ぎないが、
なにせイエスは、今現在も微妙に 思春期中の身で。
他のことでは仲がいいにもかかわらず、
気が利かないと思わないでという場面に見せる
聖母様へのややつっけんどんな態度もそうだし、

 “私もやらかしたばかりだしなぁ。”

選りにも選っての新妻抱きで、ひょいと軽々抱えてしまうという、
男のプライドとか立場とか、へし折るような真似をして、
大きに取り乱させてしまったのが、記憶に新しいものだから。
それへの尚の上塗りになっては、他でもないブッダ自身がたまらぬと、
自分から言い出したけど
そこまでは覚えてないよと持ってったところはおサスガだったが。

 “忘れちゃったよって顔してるけど…。///////”

賢い彼がそうそう片っ端から、
しかも この自分に関することを忘れるものかと。
自惚れでも何でもなくのこと、
イエスだってそのくらいはちゃんと判る身だ。
それどころか、

 “気を遣ってくれてありがとね。”

そうそういつまでもお子様じゃあないものと、
そんな機転へまで気がついてのこと、
こちらもほっこり微笑うイエスであり。

 「? なぁに、イエス。」
 「あ、いいい、いや、あのその。あ、ワサビもらおっかな?」

 はい、どうぞ。ちょっとにするんだよ?
 はぁいvv

 「それも覚えてるんだね。」
 「それも?」

他にも、それもつい今、
例があったように言うんだねと、気づかれちゃっては薮蛇だ。
ギクリと肩が躍りかかったイエスだが、

 「いやあの、わたしにまつわる注意事項みたいなこと。
  結構あるのに、ちゃんと あのその。///////」

 片やのキミは、
 その聖なる血に触れると、
 怪我が治るという素晴らしい恩恵があると同時、
 カッコつけの強い ややこしい性格や言動までもが
 しばらくほど乗り移ってしまうこととか。

 もう片やのキミには、
 慈愛あふるる人性を慕ってのこと、
 駆け足になると
 “お急ぎですか?”と大きな鹿が現れてしまうので、
 滅多なことでは駆け出せないこととか。

そういった“人ではない身だから”という
各々に特別な仕様だから…かどうだか、
ちょっぴり気をつけないといけないことは結構あって。

 「我慢し過ぎると聖痕が開くこととか?」
 「本気で怒っちゃうと光り出すこととか。」

 はしゃぐとパンやワインが生まれたり、
 何の、無機物へもやる気を起こさせたり…って、

 「隠さなきゃってことばかりだねぇ。」

あんまり公けには出来ないことが多いなんてねと、
苦笑混じりにそうと持ってくイエスだったのへ、

 「そういうところも相身互いだね。」

困ったことよと眉を寄せたブッダも、
それでも くつくつと微笑ってくれて。

 「イエスには リンゴもダメでしょ?」
 「そっか、それもあったねぇ。
  あ・でも、だったらブッダだって…。」

そこまで言っておきながら、
思わせ振りに 言葉を途切られてしまい、

 何よ。何かあったっけ?
 あのね、〜〜〜〜。////////

ちょっとちょっとと目顔で呼びながら、
自分も座ったままで身を浮かせて移動しつつ、
何か内緒話があるような態をイエスが見せれば。

 「???」

他に誰がいるでなし、
聞かれて困るほどのこと??と怪訝に思いつつ、
それでも気になるしと、素直に寄ってゆくブッダだったが

 「……あのね?」
 「………っ☆」

そのお耳へ吐息が当たった瞬間、
ひゃあっと、首から肩から、
背中までもを一気にすくめてしまっており。

 「い、いえすぅ〜〜〜。//////」
 「不思議だよねぇ。
  ただの内緒話は平気だったんでしょうに。」

今のは故意に、
ちょっぴり暖めた息を、
そおっと吐き出しながら囁きかけたもの。
なので、
途端に耳朶への刺激が襲い、
うひゃあと身をすくめてしまった釈迦牟尼様。

 それは様々な苦行をやり遂げて、
 今でも何につけ我慢強い人だというのに。
 どういう区別か反動か、
 耳の内側だけは、
 途轍もなくくすぐったがりだと判明したのも
 この地上ライフの中でのことで。

目論み通りの反応だったのへ、
でもだからと イエスも はしゃぎまではしないでいて。

 「ごめんね、ごめん。」

それこそ恐る恐るに手を伸ばして来て、
こんどはそおっと頬へ触れ、

 「それでなくとも ここ最近、
  くすぐったがりなトコロは、
  敏感さが増してるのかもしれないのにね。」

心底から案じてだろう、
いたわってくれるお声がやさしくて。
そよぎ込んだ窓からの風に、
ヒラリと躍ったカーテンの軽やかな気配の陰で、

 「〜〜〜〜っ。////////」

ああう、そうだった、
イエスってばまだ誤解したまんまなんだったと。
そこのところを思い出し、
違うと咄嗟に突っ込みかかったの、
鮮やかに口許食いしばって耐えたのがまた
おサスガなブッダ様。

 “苦行大事として来てよかったぁ。”

おいおい、そうじゃないでしょが…なぞと呆れてみても、
そんなの結局、場外からの余計なお世話。

 「…あ、ワサビ、気をつけてね。」
 「はぁいvv」

ふふーと微笑い合う それはそれは幸せなひとときを
心から堪能なさっておいでのお二方には、
何 言ったって野暮なだけです、はいvv








       お題 2 『二人だけの習慣』




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  *素麺や冷や麦というと、
   関東ではそれほど具を盛らないんだそうですね。
   もりそばみたいに、つゆと薬味だけが基本だそうですが、
   関西では各々の皿へ別盛りにし、
   冷やし中華と同じくらい、
   錦糸たまごや千切りキュウリにハムにと盛り付けた上で、
   つゆをぶっかけにして食べます。
   ただ、平日のお昼ご飯とか、
   そこまで手間かけてもなぁというレベルやテンションのときは
   水を張ったボウルに泳がせたのを
   一口ずつ摘まみ上げて、つゆにつけて食べますが。

  *習慣云々はそこだけで、
   あとはお互いの取扱説明書っぽかったですかね。(笑)

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